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札幌地方裁判所 昭和52年(行ウ)1号 判決

原告 甲野一郎

右法定代理人親権者父 甲野太郎

同母 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 倉谷悦二郎

被告 ○○高等学校長 野村雅夫

右訴訟代理人弁護士 山根喬

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

〔原告〕

一  被告が昭和五一年一二月七日原告に対してした退学処分を取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

〔被告〕

主文と同旨

第二当事者の主張

〔請求原因〕

一  原告は、昭和五一年一二月当時、○○高等学校漁業科三年生として在学していたところ、被告は、同月七日、原告に対し、退学処分をした。

二  しかし、原告は、被告が本件退学処分の事由として主張するような行為をしたことがなく、仮に原告に幾らか不都合な行為があったとしても、それについて原告を退学処分にすることは、明らかに度を失し、社会通念上、到底容認することができない。しかも、原告は、相撲部主将として、昭和五一年夏の全道高校大会に出場し、同校を優勝させた実績があり、その他の大会にも出場しているし、これまで被告から懲戒処分を受けたこともない。

したがって、本件退学処分は、違法不当なものである。

三  よって、原告は、被告が昭和五一年一二月七日原告に対してした本件退学処分を取り消す旨の判決を求める。

〔請求原因に対する認否〕

一  請求原因第一項の事実を認める。

二  同第二項の事実のうち、原告がその主張するように相撲部主将として活躍したこと及びこれまで被告から懲戒処分を受けたことがないことは認めるが、その余は争う。

〔抗弁〕

一  本件退学処分の事由

1 原告には、次に述べるとおり、これまで生徒としての本分に反する行為があり、数回にわたって注意を受けながら一向に反省せず、むしろ反抗的態度に終始していた。

(一) 原告は、第二学年二学期の体育(バレーボール)の授業の際、遅刻し、服装も悪かった。A教諭が注意すると、これを聞こうともせず、反抗的態度をとったので、その場で同教諭から十分注意指導を受けたが、その後の授業でも態度が改まらず、注意を受けるたびに反抗的態度をとっていた。

(二) 原告は、第二学年二学期の倫理、社会の授業中、その授業態度が悪く、B教諭から再三注意を受けても改めなかったので、職員室で指導を受けたところ、「自分だけ騒いでいるのではない。」と言って、その非を認めなかった。なお、原告の授業態度の評価は、A、B、C三段階の中でただ一人Cであった。

(三) 原告は、第三学年一学期の政治、経済の授業中、その授業態度が悪く、B教諭から注意指導を受けたところ、「勝手だろ。」、「やるか。」などと暴言を吐き、反抗的態度をとった。

(四) 原告は、昭和五一年二月、実習船若竹丸での乗船実習中、船内士官食堂冷蔵庫に冷やしてあった罐ビール一個を盗み、小走りで自室に行く際、級友とぶつかって罐ビールを落とし、この音を聞いて盗みの事実を知ったC司厨長から指導を受け、D船長、E、F指導教官からも厳重に指導を受けた。

(五) 原告は、右乗船実習中、甲板作業をしていたが、体が汚れたと言って勝手に持ち場を離れ、生徒の入浴時間外であるのに、風呂に入って洗濯しているところを船内巡視中のF指導教官に発見され、指導を受けた。しかし、その後も自分の持ち場に行かず、生徒室で休んでいた。

(六) 原告は、右乗船実習中、昼食に出たバナナを他人の分まで食べてしまうという事件があって、D船長、G一等航海士、E、F指導教官から指導を受けたが、これを受け付けず、かえって暴言を吐く始末であった。

(七) 原告は、第三学年二学期(昭和五一年九月二九日)の航海、計器の授業中、後ろを向いて話をするなど授業を妨害し、H教諭から注意を受けても止めなかった。そして、H教諭が原告の座席近くまで行って再度注意しても聞き入れず、むしろ反抗的態度をとり、「うるさいな。何だ、この野郎。何ならやってもいいんだぜ。」などと暴言を吐き、自分のかばんを持って早退してしまった。

(八) 原告は、昭和五一年一〇月一六日午後九時ころ、ダンスホール「○○○○○」にいるところを補導され、飲酒、喫煙もあったので注意を受け、すぐ帰宅するよう指導を受けた。

2 I教諭に対する傷害事件

(一) 昭和五一年一二月一日の昼休み、原告は、第四時限の授業担当者I教諭に対するいやがらせと授業妨害を目的として、教卓を逆さにし、自分の机を最後部坐席に移した。

(二) その後、J生徒は、デレッキの握りの部分をストーブで熱くし、その握りの部分が汚れていたのでこれを擬装するべく、K生徒の持っていたジャージで拭ったが、化学繊維なので溶けて、汚れを拭いとる効果がなかった。そこで、Kは、ロッカーから柔道着を取り出し、デレッキの握りの部分を拭いた。Jは、デレッキが熱せられているかどうか確かめるため、デレッキをバケツの水に入れると、「ジュー」と音を発した。Jは、柔道着を用いてデレッキの先の方をつかみ、再度、その握りの部分をストーブで熱くし、逆さになっている教卓の上に置いた。それから、J、Kも、教室の後部に移った。

(三) L生徒は、「見張りをしてろ。」と言われて、教室そばの階段付近で、I教諭の来るのを見張っていた。

(四) 原告とJは、ストーブのそばにいたM生徒に対し、「M、デレッキぬるくなっていないか。もう一回熱くしてくれ。」と命じ、Mは、これを断わりきれず、デレッキをストーブの中に入れ、自分の坐席についた。

(五) 見張りのLがI教諭の来たことを告げると、教室の後部にいた原告は、ストーブのそばにいたN生徒に対し、「N、デレッキを教卓の上にのっけてくれ。」と命じ、Nは、これを断わりきれず、デレッキを教卓の上に置いて自分の坐席についた。

(六) その直後、I教諭が入室し、教卓が逆さにされていて、その上にデレッキが置いてあったので、全員を叱りながら、まず、デレッキを片付けようとして、その握りの部分をつかんだところ、この部分が熱せられていたので、右第一、二、四指に第二度の火傷を負った。

(七) なお、前日の一一月三〇日にも、同教室において、I教諭の担当時間前に、ストーブの回りにいた者が熱したデレッキを机の上に置いたが、熱し方が足りなかったので火傷を負うに至らなかった事情がある。

二  原告の右行為は、教師に対して傷害を負わせるという重大な冒涜行為であると同時に、授業妨害であり、学校の秩序を破壊し、生徒としての本分に反する重大な非行であって、学校教育法施行規則第一三条第三項第四号及び北海道立高等学校学則第二三条第四号にいう「学校の秩序を乱しその他生徒としての本分に反した者」に該当する。

三  そこで、被告は、学校教育法第一一条によって与えられた懲戒権に基づき、教育施設としての秩序を保つべく、その裁量の範囲内で、原告の行なった行為の軽重、平素の行状などを考慮して、原告を本件退学処分にした。

四  なお、被告は、I教諭に対する傷害事件につき、原告と同様、自らの発意で主導的役割を果たしたJ、Kを退学処分に、右両名や原告にそそのかされて行為に加わったL、M、Nを無期停学処分にしている。

〔抗弁に対する認否〕

一  抗弁第一項1について

1 (一)の事実は否認する。

2 (二)の事実のうち、原告が第二学年二学期の倫理、社会の授業中、B教諭から注意を受け、職員室で、「自分だけ騒いでいるのではない。」と言ったこと及び原告の授業態度の評価がA、B、C三段階の中でCであったことは認めるが、その余は否認する。

3 (三)の事実のうち、原告が第三学年一学期の政治、経済の授業中、B教諭から注意を受け、「勝手だろ。」と言ったことは認めるが、その余は否認する。

4 (四)ないし(六)の事実は否認する。

5 (七)の事実のうち、原告が第三学年二学期(昭和五一年九月二九日)の航海、計器の授業中、H教諭と言い合ったこと及び学校を出て行ったことは認めるが、その余は否認する。

6 (八)の事実のうち、飲酒、喫煙があったことは否認し、その余は認める。

二  抗弁第一項2について

1 (一)の事実のうち、I教諭に対するいやがらせと授業妨害を目的としてとの点は否認し、その余は認める。

2 (二)及び(三)の事実は知らない。

3 (四)及び(五)の事実は否認する。

4 (六)の事実は認める。

5 (七)の事実は知らない。

三  抗弁第二ないし第四項について

争う。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が昭和五一年一二月当時○○高等学校漁業科三年生として在学していたところ、被告が同月七日原告に対し退学処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二  学校教育法第一一条、同法施行規則第一三条によれば、公立高等学校の校長は、右規則第一三条第三項の各号に該当する生徒に対し、懲戒を加え、退学処分を行なうことができるとされているが、北海道立高等学校学則第二三条においても、右規則の条項を受けて、「懲戒による退学を命ずるのは左の各号の一に該当する場合に限る。一、性行不良で改善の見込がないと認められる者。二、著しく学習を怠り成業の見込がないと認められる者。三、正当の理由がなくて出席が常でない者。四、学校の秩序を乱しその他生徒としての本分に反した者」と規定している。

ところで、校長が公立高校生徒の行為に対して懲戒処分をするに当り、その行為が懲戒に値するものであるかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決するについては、その行為の軽重のほか、本人の性格及び平素の行状、右行為の他の生徒に与える影響、懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果など諸般の要素を考慮する必要があるが、これらの点の判断は、学校内の事情に通暁し直接教育の衝に当る者の合理的な裁量に任すのでなければ、適切な結果を期待することができない。それ故、公立高校生徒の行為に対して懲戒処分をするかどうか、また、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかを決定することは、この点の判断が社会通念上合理性を認めることができないようなものでない限り、懲戒権者たる校長の専門的、自律的な裁量判断に任されているものと解するのが相当である。もっとも、退学処分は、他の懲戒処分と異なり、生徒の身分を剥奪する重大な措置であるから、その性質上、他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要することは、いうまでもない。

三  そこで、まず、本件退学処分の事由として被告が主張する事実の存否及び右処分に至るまでの経緯につき判断する。

《証拠省略》を考え合わせると、次の事実が認められる。

1  原告は、第二学年二学期の体育(バレーボール)の授業の際、遅刻し、服装も悪かった。A教諭が注意すると、これを聞こうともせず、反抗的態度をとったので、その場で同教諭から十分注意指導を受けたが、その後の授業でも態度が改まらず、注意を受けるたびに反抗的態度をとっていた。

2  原告は、第二学年二学期の倫理、社会の授業中、その授業態度が悪く、B教諭から再三注意を受けても改めなかったので、職員室で指導を受けたところ、「自分だけ騒いでいるのではない。」と言って、その非を認めなかった。なお、当該学期における原告の授業態度の評価は、A、B、C三段階の中でただ一人Cであった。

3  原告は、第三学年一学期の政治、経済の授業中、その授業態度が悪く、B教諭から注意指導を受けたところ、「勝手だろ。」「やるか。」などと暴言を吐き、反抗的態度をとった。

4  原告は、昭和五一年二月、実習船若竹丸での乗船実習中、その日は食事当番をしていたが、船内士官食堂冷蔵庫に冷やしてあった罐ビール一個を盗み、小走りで自室に行く際、O生徒と廊下でぶつかって罐ビールを床に落とし、この音を聞いたC司厨長に発見されて指導を受け、D船長、E、F指導教官からも厳重に指導を受けた。

5  原告は、右乗船実習中、甲板作業をしていたが、体が汚れたと言って勝手に持ち場を離れ、生徒の入浴時間外であるのに、風呂に入って洗濯しているところを船内巡視中のF指導教官に発見され、厳重に注意指導を受けた。しかし、その後も自分の持ち場に行かず、生徒室で休んでいた。

6  原告は、右乗船実習中、昼食に出たバナナを他人の分まで食べてしまうという事件があり、船内秩序維持の見地から実習生全員が注意指導を受けたが、D船長、G一等航海士、E、F指導教官から原告がこれに関係しているということで特に指導を受けた際、これを受け付けず、かえって、暴言を吐いた。

7  原告は、第三学年二学期(昭和五一年九月二九日)の航海、計器の授業中、後ろを向いて話をするなど授業を妨害し、H教諭から注意を受けても止めなかった。そして、H教諭が原告の坐席近くまで行って再度注意しても聞き入れず、むしろ反抗的態度をとり、「うるさいな。何だ、この野郎。何ならやってもいいんだぜ。」などと暴言を吐き、立腹したH教諭が詰め寄ると、自分のかばんを持って早退してしまった。

8  原告は、昭和五一年一〇月一六日午後九時ころ、小樽市少年福祉センターによるダンスホール等特別夜間補導中、友人と一緒に市内にあるダンスホール「○○○○○」にいるところをP教諭に発見され、飲酒、喫煙もあって注意指導を受け、すぐ帰宅するよう指示された。

9  I教諭に対する傷害事件

昭和五一年一二月一日の昼休み、漁業科第三学年教室において、原告は、第四時限の授業担当者I教諭に対するいやがらせと授業妨害を企て、教卓を逆さに引っ繰り返し、自分の机を教室内を見通せる最後部坐席に移して座った。次いで、教室に入って来たJ生徒は、デレッキの握りの部分をストーブに突っ込んで熱したところ、その握りの部分がすすけていたので、K生徒の持っていたジャージで拭ったが、化学繊維なので溶けて、すすを拭いとる効果がなかった。そこで、Kは、ロッカーから柔道着を取り出し、デレッキの握りの部分を拭いた。Jがデレッキをバケツの水に入れると、ひどく熱せられていたので、「ジュー」と音を発した程であった。Jは、柔道着を用いてデレッキの先の方をつかみ、再度、その握りの部分をストーブで熱くし、逆さになっている教卓の上に置いた。それから、J、Kも、教室の後部坐席に坐った。原告とJは、ストーブのそばにいて自分の座席に戻るため教卓付近を通ったM生徒に対し、「ぬるくないか。もう一回熱くしてくれ。」と命じ、Mは、これを断わりきれず、デレッキをストーブの中に入れ、自分の坐席についた。L生徒は、他の教室から戻ってきたところ、「見張りをしてろ。」との声で、教室付近の階段のところでI教諭の来るのを見張っていたが、「I先生が来たぞ。」と言って教室に入って来ると、透かさず、原告は、教室後部からストーブのそばにいたN生徒に対し、「N、デレッキを教卓の上にのせてけれ。」と大声で言い、Nは、これを断わりきれず、デレッキを教卓の上に置いて自分の坐席についた。その直後である午後一二時四五分ころ、I教諭が入室し、前の坐席にいる生徒に対して教卓を直すよう命じたが、誰も直さなかったので、まず、教卓の上に置いてあるデレッキを片付けようとして、その握りの部分をつかんだところ、この部分がひどく熱せられていたため、右第一、二、四指に第二度の火傷を負い、その際、多くの生徒が笑った。

なお、前日の一一月三〇日にも、同教室において、第五時限の授業担当者I教諭の授業の際、ストーブで熱したデレッキを教壇の上に置き、同教諭に対するいやがらせを企てた事件があった。しかし、この事件は、デレッキの熱し方が足りなかったので失敗に終わっている。

10  学校側では、原告らの学級担任であるQ教諭、生徒指導課主任R教諭、漁業科主任H教諭らが、クラスの全生徒に対してI教諭に対する傷害事件に関係した者は自ら名乗り出るよう呼びかけたり、生徒らだけで話合いをさせるなどして事実の調査を行ない、当日、ストーブの回りにいた者を含めて一四名の生徒がこの事件に関係があるとして名乗り出た(この一四名の中には、原告は入っていない。)ので、たまたま開かれていた恒例の職員会議において被告からI教諭が火傷を負った事実とともに報告され、翌二日には、Q教諭に聞かれて原告もこの事件に関係があることを認め、更に、Kの申出によって原告を含む一五名の生徒だけで話合いをさせたところ、その報告によって、原告が教卓を引っ繰り返したこと、Jがデレッキを熱して教卓の上に置いたこと、Mが教室の後ろの方から誰かに言われてデレッキを熱し直したこと、Nも教室の後ろの方から声をかけられてデレッキを教卓の上に置いたことがわかり、生徒指導課の教諭らが手分けして一五名全員から事実を確認し、M、N及びS生徒の話から、デレッキを教卓の上に置くようMやNに声をかけた者が原告やJであることがわかり、これらのことが追加して二日の臨時職員会議に報告され、また、その日の夜、Q教諭がMから更に事情を聞いてK、Lも前認定のような行為をしたことがわかり、三日、K、Lも自己らの行為を認めるに至り、右両名を含む一五名の生徒から再度事実を確認して前記9のとおり事件の全容を把握し、前日に引き続いて行なわれた臨時職員会議において、I教諭に対する傷害事件及びこれに関係した各生徒の平素の行状等(原告については、前記1ないし8の事実など)につき慎重に審議して指導方法を検討した結果、原告、J、Kを退学処分に、L、M、Nを無期停学処分に、残りの九名のうち三名の生徒に学校長説諭をすることの意見が全員一致でまとまり、被告は、右職員会議の意見どおりにそれぞれ懲戒処分を行なった(原告に対しては、一二月七日、被告から原告の母甲野花子同席のもとに説諭とともに退学処分通知書が手渡された。)。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

四  前項で認定した事実に基づき本件退学処分の適否を考えるに、I教諭に対する傷害事件は、前認定の事実から明らかなとおり、教師に対するいやがらせと授業妨害を企て、授業の開始に先立ち、教室内において、クラスの全生徒の面前で、一部の生徒が結託してストーブで熱したデレッキを大胆にも何ら責められるべき点のない教師に握らせて火傷を負わせたものであるから、その行為は、単なるいたずらではすまされないものであり、教師を侮辱する悪質かつ危険な暴力行為といわざるを得ない。そして、原告は、率先して教卓を引っ繰り返して右事件の口火を切り、直接デレッキをストーブで熱して教卓の上に置いたわけではないが、教室内を見通せる最後部坐席から事の成行きを見ながら、他の生徒に対しデレッキを熱して教卓の上に置くよう命じたもので、この事件につき主導的役割を果たした者の一人であり、その責任は、原告と共に被告から退学処分を受けたJ、Kに劣らず重いというべきである。しかも、原告は、一方において相撲部主将として活躍し、これまで被告から懲戒処分を受けたことがなかった(この事実は、当事者間に争いがない。)とはいえ、学校の内外における平素の行状が悪く、クラスのボス的存在であり、教師等から再三注意指導を受けながら、その態度が改まらず、かえって、暴言を吐くなど教師等に対する反抗的態度も目立っていたもので、その延長としてI教諭に対する傷害事件を起こしたのである。本件退学処分については、なお、その措置が最善であったかどうか、例えば無期停学処分でもよかったのではないかなど、教育的見地から論議の余地があるかもしれない。しかし、そうした判断は、懲戒権を与えられた被告の裁量権の範囲内にあるものというべきであり、本件退学処分は、重い処分との印象を免れないとしても、既に述べたような諸般の要素を考慮するならば、被告において職員会議で慎重に審議して指導方法を検討したうえ、教師に対する傷害という著しい非行をした原告を退学処分事由を定める北海道立高等学校学則第二三条第四号にいう「学校の秩序を乱しその他生徒としての本分に反した者」に該当すると認定し、これに対してとられた措置である以上、やむを得ない結果であり、この点の判断が社会通念上合理性を欠き、懲戒処分につき被告に与えられた裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった違法のものということはできない。

五  よって、本件退学処分は、適法であり、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安達敬 裁判官 星野雅紀 富田善範)

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